教室紹介

感染防御学分野は、平成元年4月に医学部感染防御学講座として原田信志教授の就任によりスタートしました。その後、大学院部局化により大学院医学薬学研究部感染防御学分野となりました。現在は、原田教授、前田助教授、遊佐講師、ニューヨーク大学への留学を終えて帰国し、昨年9月から教室に加わった木村研究員、博士課程大学院生の門出君、補助員の寺沢さんが構成員です。本教室の特徴ある施設としては、病原微生物を扱うためのP3レベルの実験室があります。

 教育については、医学部の学生に対して感染防御学の講義と実習を行っています。実習では、いくつかのウイルスを実際に使って、ウイルスの定量や診断に関連した手技を学びます。大学院生に対しては微生物学の一部の講義を担当しています。

 教室ではヒトレトロウイルス疾患を中心に研究をすすめています。本学には、エイズ学センターをはじめとして、レトロウイルスの研究グループが、いくつかありますが、本教室の研究の特徴は、ヒト後天性免疫不全ウイルス(HIV)と成人T細胞白血病ウイルス(HTLV)の基礎的な側面に焦点を当てているということです。対象は、ウイルスの宿主細胞への吸着侵入から粒子形成、放出までのウイルスのライフサイクルをウイルス学的あるいは分子生物学的手法を用いて解析し、ウイルスと宿主細胞タンパク質因子との関連を明らかにすることです。

 主要なテーマの一つは、レトロウイルスのエンベロープタンパク質と細胞レセプターの相互作用とその後に起きるウイルスの細胞内への侵入についてです。ウイルスの脂質二重膜と標的細胞膜の流動性が感染性に及ぼす影響や中和抗体による中和機序の解明をめざしています(原田)。またウイルスが細胞に吸着侵入する際にはウイルス膜表面上にあるウイルス糖タンパク質は決定的に重要な役割を果たしますので、ワクチンや侵入阻害剤の開発などにつながる鍵となる分子です。この糖タンパク質の構造と機能の解析も重要なテーマです(前田・木村)。ここ2、3年レトロウイルスの吸着・侵入過程にかかわる宿主細胞の因子群についての研究がさかんになりました。ヒト、サルを宿主とするレトロウイルスの宿主域が、どのように決定されているのかを解析することもレトロウイルスの進化の歴史や今後の治療に結びつく重要なテーマです(前田)。この他に変異導入ウイルスを用いて、HIVの変異、病原性に関わるウイルス側の変化について、とくに薬剤耐性獲得機序の解明もすすめています(遊佐)。

 教室の理念は、自立した研究者をそだてるということですので、大学院生といえども対等な立場で、意見交換や議論は活発に交わしたうえで、各自責任をもって、独立して研究をすすめています。教室のスタッフは大学院生に助言や協力・サポートはしますが、主体的に研究を進めなくてはなりません。週2回のお昼にあるセミナーと水曜日に全員で行う掃除を除くと、独立して各自自分のテーマで実験を行っています。これは教授も同様で、自ら研究室に籠り、データを出して自分のテーマを追求しています。

 近年の日本国内でのHIV-1感染者の増加に加えて、トリインフルエンザ、SARSウイルス、ウエストナイルウイルス、ニパウイルスなどの新興感染症の出現は、感染症がこれからも社会の脅威となることを予想させます。皮肉なことに、こうした問題があるかぎり、感染防御学は常に新しく、興味深い学問でありつづけるのかもしれません。