教授挨拶

 熊本大学細胞病理学講座のHPをご覧頂きありがとうございます。
 令和3年3月1日付けで熊本大学大学院生命科学研究部細胞病理学講座教授を拝命いたしました。初代の武内忠男名誉教授、二代目の高橋潔名誉教授、三代目の竹屋元裕名誉教授に続く四代目の教授になりましたことを大変光栄に存じております。これまで支えて頂きました同門の先生方をはじめ、熊本大学や他施設の先生方に感謝申し上げます。
 当講座は1955年に発足した病理学第二講座を前身としています。武内忠男教授時代は染色法の開発や神経病理・水俣病解明などの研究、高橋潔教授時代はマクロファージ発生(Ontogeny)や動脈硬化に関する研究、竹屋元裕教授時代は様々な疾患病態におけるマクロファージ活性化バランスの研究が盛んに行われていました。私は熊本大学医学部医学科を卒業後、すぐに病理学講座の大学院に入学し病理解剖に携わりながらマクロファージに関する研究を行いました。博士号取得の後はがんにおけるマクロファージに役割について病理学的観点から新たながん治療を開発することに取り組んでいます。
 国立大学医学部における講座に求められる役割としては、診療・教育・研究の三要素があげられますが、いずれも極めて重要であり、切り離して考えることはできません。細胞病理学講座は基礎医学部門に所属していますので、教育・研究に重点的に関わることになります。以下にそれぞれの要素に対する取り組みを紹介します。

【教育について】
 まずは、熊本大学医学部のポリシーである「豊かな人間性と高い倫理観を持ち、医学およびその関連領域における社会的な使命を追及、達成しうる医師・医学者の育成」を当講座の使命と考えます。医学部医学科や保健学科の学生への教育だけでなく、修士課程の学生や社会人大学院生、臨床講座の博士課程大学院生を受け入れ、各臨床講座との共同研究を進めています。教室内では定期的に研究報告や論文紹介を行っており、最新情報や研究内容に関する意見交換が活発にされています。医学部のみならず薬学部や工学部の学生も出入りしていますので、幅広い研究内容に触れることが出来るのも特徴の一つです。

【研究について】
 当教室はこれまでマクロファージに関する研究を長年継続しています。免疫細胞であるマクロファージは全ての臓器に存在しており、感染防御などを通して生体の維持に関わっています。近年、健康状態を保つだけでなく、多くの疾患病態に主役であったり脇役であったり様々な方面から関わることが明らかになっています。また疾患病態形成においては、悪玉・善玉という側面からもその役割が注目されており、マクロファージの活性化を標的とした治療法の開発も進んでいます。私たちは、「病理」という強みを活かして、まずは各種疾患(主に腫瘍性病変)におけるマクロファージの分布状態や活性化状態を顕微鏡下で解析し、そこから得られる情報を基にして様々な研究をすすめています。病気の治療には様々な分野の融合が必要と考えていますので、医学部だけの領域にとどまらず、薬学部・工学部とも共同研究を進めています。
 また、当講座は、得意とする組織学的解析を中心とした共同研究を通じて、様々な研究室の研究支援を行っており、病理学分野にとどまらず幅広く社会貢献することも重要な責務と考えます。

【診療について】
 当教室は熊本大学における病理解剖を病理診断科と共に担当していますが、熊本県内における病理医不在病院の病理検査・診断にも携わっています。一部の病院では、先方に出張し臨床病理カンファレンスなどを行うことで臨床医・検査技師とのコミュニケーションを図っています。学術的に重要と思われる症例に関しては、症例報告・論文作成にも貢献しています。日常の病理検査・病理診断から得られるアイディアを活かした研究こそ病理学研究者の醍醐味だと思いますので、研究マインドを持ちつつ地域医療に貢献していきたいと考えています。

 これまでの熊本大学病理学講座の伝統を引き継ぎながら、マクロファージを基軸として「免疫病理学における世界レベルの名門教室を築く」ことを目標にしつつ、医学生物学分野の研究発展、そして活力ある人材育成を通じた医療への貢献を目指し邁進いたします。どうぞよろしくお願いいたします。

熊本大学大学院生命科学研究部 細胞病理学講座

菰原義弘