熊本大学 大学院生命科学研究部 神経分化学教室

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研究

(D)リボゾーム

 腸の中では、様々な種類の菌が共生し一つの生態系を形作っていることから、これらの集団は腸内フローラと呼ばれている。乳酸菌とは、糖を分解して乳酸を生成する細菌類の総称であり、腸内フローラを構成する善玉菌(人体に有用な働きをする菌の総称)の一つである。乳酸菌には腸の働きをよくするだけでなく、アトピー性皮膚炎や花粉症に予防効果があること、ヨーグルトを食べるとインフルエンザにかかりにくくなるといった報告から、腸内細菌は「現代医療のトップランナー」と言われるほど未知なる可能性を持っている。しかしながら、乳酸菌による腸上皮細胞のエピゲノム変化や細胞機能への影響などの基礎的情報は、ほとんど調べられていない。

 細胞とバクテリアの相互関係を調べるために、私たちはヒト皮膚細胞(Human Dermal Fibroblasts, HDF細胞)に乳酸菌 [Lactobacillus acidophilus;JCM1021]を取り込ませた。数日後、乳酸菌を取り込んだ細胞はES細胞様の細胞塊を形成し、アルカリホスファターゼ染色法で染色された。また、乳酸菌を取り込んだ細胞塊は、様々な多能性幹細胞マーカーを発現し、三胚葉由来の細胞へと分化誘導できた。マイクロアレイ解析において、乳酸菌を取り込んだ細胞塊ではHDF細胞と比べて多能性遺伝子群のマスター遺伝子と考えられているNANOGの発現が増加し、からだの前後軸形成に重要な役割を持つHOX遺伝子群の発現が顕著に減少していた。以上の結果は、HDF細胞が乳酸菌を取り込むことにより、細胞のリプログラミングが誘導され、HDF細胞は位置情報を失い、多能性を獲得したことを示唆するものである。最近、私たちは乳酸菌由来の分画の中にリプログラミング活性を見出し、乳酸菌由来のリプログラム因子の同定を試みている。

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